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株式会社ベネフィット・ワン

 

福利厚生のアウトソーシングという事業

丹下:事業内容から教えていただけますか?

白石:この会社は今から13年前に人材派遣のパソナの社内ベンチャーからできた会社です。やっていることの一番のベースは「福利厚生のアウトソーシング」です。一般的にアウトソーシングの会社として見られているのですが、元々の会社のビジョンは少し違っています。「サービスの流通を創造していこう」というのが我々の大きなテーマです。

丹下:「サービスの流通」ですか?

白石:モノに関わる流通は、成熟産業です。それこそ百貨店もあればディスカウントショップもあるし、通販もあります。考え得る限りのものが開発されていると思います。色々なところで、流通革命と言われていますよね。それに対してサービスは、サービスを提供するメーカーが製造から販売まで同じ立場で行っています。引越しの会社や英会話の会社、皆ひとつの会社がまとめてサービス提供していますよね。これはおそらく、世の中が成熟してきたら、製販分離が起きてくるだろうと思いました。逆になぜ今までそうなってこなかったかというと、理由は2つあります。まず1つは、サービスはモノではないので、デリバリーの必要性がなかったんですね。2つ目は、単純にサービス業は製造業に対して歴史が浅いということです。

丹下:なるほど。面白いですね。


職域販売とユーザー課金型ビジネス

白石:ただ、一口にサービスの流通と申しましても、何か大きな差別化をしていかないとなかなか難しいということもありまして、我々は、2つの差別化をしています。1つは、世の中に色々な流通形態がありますが、日本に昔からあった「職域販売」という流通形態を採用しています。これは、大手企業の従業員に限定されますが、会社の福利厚生を利用して色々なモノやサービスを買っています。例えば、日本で最も職域販売で売られてきたのが「住宅ローン」です。大体大手企業には住宅ローン制度があります。そうすると、会社が補填してくれるし、優遇レートで出してくれてますしね、結果、多くの社員は社内の住宅ローンを申し込みます。
★ Dreamerのプロフィール
出身地 東京都八王子市
生年月日 1967年1月23日
学歴 拓殖大学卒業
略歴 96年パソナの社内ベンチャー1号として、ビジネス・コープ(現ベネフィット・ワン)設立、取締役に就任。
00年ビジネス・コープ代表取締役社長に就任。01年ベネフィット・ワンへ社名変更。
04年JASDAQ上場、06年に東証二部上場を果たす。
趣味 スキー・旅行・読書

その他

☆ 会社概要
企業理念 良いものを より安く より便利に

社名 株式会社ベネフィット・ワン
代表者 白石 徳生
設立 1996年3月15日
住所 東京都渋谷区渋谷3-12-18 渋谷南東急ビル
TEL 03-4360-3250
FAX 03-4360-3221
URL https://bs.benefit-one.co.jp/
白石:これは、従業員から見れば福利厚生ですが、会社側から見れば販売チャネルですよね。これが「職域販売」です。我が社もこれをやろうと。福利厚生のアウトソーシングをやるということは「職域販売」をやることを意味しています。

丹下:なるほど。もう1つの差別化はなんでしょうか?

白石:「ユーザー課金型」だということです。会員から会費を頂いていますま。サービスの流通は言い方を変えるとサービスのマッチングです。サービスマッチングはインターネットの中では実に色々な企業が出てきているんですよね。弊社は何でも扱っていますが、例えば、我々が扱っている飲食の分野でライバルは「ぐるなび」さんです。弊社との違いというのは2つあります。1つは「ぐるなび」さんが飲食に特化して、ブティック型であるのに対し、我々は福利厚生の名の下に飲食から育児から介護から何まで、全てのサービスを網羅していますのでデパートメント型なのです。

白石:もう1つは、「ぐるなび」さんの収益構造は広告収入型ですので、誰でも情報を無料で見られます。我々は正反対で、飲食店からは広告料も掲載料も一切取らない代わりに、福利厚生費という形で会員から会費を頂いています。ビジネスモデル的に見るとユーザー課金型ですよね。このユーザー課金型というのが同じサービスマッチングをしている中でも大きく他社と違う所です。これは創業以来こだわっているところです。

丹下:なぜそこにこだわりを持たれているんですか?


白石:おそらくサービスの流通に関して、ユーザーより求められるのは、サービス内容の比較検討ができるような機能だと思うんです。金融でいうとムーディーズとか、食で言うとミシュランとか。同様に育児とか英会話とか病院においても、サービスの格付けをすることがサービス流通のおそらく最も基本的な作業なんです。その格付けというものは、ユーザー課金でやる場合には自由に出来るのですが、広告収入型だと難しいです。広告料を多く払ってくれたところは多く流してしまいますからね。このユーザー課金型というのは我々の特色ですし、サービスの本質的なところをついていると思っています。今、申し上げたようなことが簡単に言うとわが社のビジョンである「サービスの流通を創造する」ということですね。
パソナの社内ベンチャー制度第一号で起業

丹下:パソナにいらっしゃった時は、社内ベンチャー第一号とお聞きしたんですが、いくつくらい案があったんですか?

白石:私自身はビジネスモデルを10~20くらい温めていました。

丹下:当初から流通革命みたいなことを意識されていたのですか?

白石:元々、インターネットのビジネスをやろうと先に決めていました。当時からインターネットを使ったビジネスというのはeコマースかサービスマッチング型のぐるなび、あとはヤフーかみたいなビジネスモデルだと言われていました。時代に逆行していると思われるかもしれませんが、ヤフーやグーグルのようなビジネスモデルは長続きしないと思っています。広告収入型というのは、広告には必ずバイアスがかかりますから、正しい情報に成り得る訳がないんですね。消去法でいったらeコマースで、どうせやるならサービスマッチングだと分野を決めたわけです。なぜなら、サービスというのはインターネットだろうがリアルだろうが流通がないわけですから、信用性も高いじゃないですか。物流の必要もないわけですし。サービスマッチングをやろう、サービスの流通創造につなげよう。そして対外的な表現方法を「福利厚生のアウトソーシング」としました。
白石:元々、福利厚生のアウトソーシングじゃなくて、インターネットを使ったサービスマッチングをユーザー課金でやるというのが頭の中にあって、ユーザー課金で個人からお金をもらうのはなかなか大変じゃないですか。たまたま日本には福利厚生制度というものがあって、そこの財布を取りにいけるというのが分かりましたので、福利厚生のアウトソーシングというビジネスモデルを構築したというのが実態ですね。

丹下:パソナさんはドメインを絞って、新規事業をやられたんですか?それとも、とにかく公募で新しいこと集めますみたいな感じだったんですか?

白石:パソナから見てどういう位置づけになっているかというと、人材派遣を含めて様々なアウトソーシングをグループ展開していく中の1アイテムという感じです。単体としては、サービスの流通創造ですが、グループ戦略としてはワンストップのワンビジョンという形です。どちらから見るかによりますが、これはユーザーから見れば、アウトソーシングなんですよ。しかしサプライサイドから見れば流通ですよね。


創業時は、毎月2000万円の赤字、累損4億円。

丹下:最初、パソナ社内で作られた時は、白石社長自ら営業とか行かれていたんですか?
白石:そうですね。元々営業ですから。

丹下:まずはサプライヤーさんからですか?

白石:そうですね。商品ができないですから、ホテルとか学校、病院とかを回って、一定の数を作ってからといった感じですね。

丹下:最初のきっかけになるサプライヤーさんってすぐに取れたんですか。

白石:サプライヤーさんからはお金を頂いているわけじゃないので、大変だったのは会員を集めるほうです。会費を頂いてますからね。変な話、会員が0だろうが1万人だろうが一定のコストがかかりますから。毎月2000万くらい赤字でしたね。。累損があっという間に4億円超えました。よくパソナも我慢してたなと思います。

丹下:最初にかかった費用というのは営業コストですか?

白石:仕組みを作る構築コストですとか、人件費ですね。家賃とかそれなりの規模でやってましたから。

丹下:それを覆して余りあるビジョンが最初からあったということでしょうか?

白石:そうですね。
丹下:いつくらいから温めていたんですか?

白石:会社を作る1年くらい前ですね。

丹下:パソナの時期ですね。海外にいらっしゃったんですよね?

白石:そうですね。


大学時代、アメリカでインターンシップを経験

白石:元々パソナとの縁というのが大学時代にアメリカのパソナにインターンシップしていたのがきっかけですから。

丹下:大学がアメリカだったんですか?

白石:いえ。日本の大学ですが、知り合いがパソナにいまして、遊びがてらせっかくだからインターンでもやろうかなと。

丹下:なるほど。外資系への人材派遣をされていたんですか?

白石:いえ。アメリカにある日本企業が相手です。住友銀行とか三菱商事とかロサンゼルスにものすごく進出していましたから。バブル全盛の88年、「Japan as No.1」とか言われてね。


丹下:そのころのエピソードとかありますか?

白石:大学3年ときに向こうに行って、「お前らスーツ買ってこい、駐在員のフリしろ」等と言われて、駐在員になりきり、パソナの名刺で住友銀行に行って支店長さんいらっしゃいますかとか飛び込み営業をしていました。けっこうお会いできるんですよね。駐在員同士ではないですが、同じ日本人同士ということで。日本ではなかなかお会いできない人にも会えましたね。いい経験しましたよ。

丹下:そこで営業ノウハウも身に付けられたという感じなんですか?

白石:そうですね。
丹下:その時は誰か先輩の姿を見て覚えたんですか?それとも御自分ですか?

白石:自分ですね。ただ、当時のアメリカパソナの社長だった上田社長に基本的な仕事の考え方等は学びましたね。日本に帰ってきてからは責任者でもある南部に基本的なことを学びました。


時給スタートでの営業職

丹下:90年くらいに就職されたと思うんですけど、それで、1997年8年に起業されるまでの間というのは、ずっとパソナで仕事されてたのですか?

白石:そうですね。正確に申し上げると私は大学卒業してから、またアメリカに行きました。それで、インターンシップの続きみたいなことをアメリカパソナでやっていたのですね。元々アメリカに行った目的というのはなにかビジネスプランを探して、日本で起業しようというのが目的でして、実は向こうの、あるビジネス、車のアクセサリー関係のビジネスだったんですけど、それをやろうと思っていました。大学時代の先輩がアメリカに残り、私が日本に帰り、3ヶ月くらい日本でプレマーケティングをやった結果、法規制の問題等があってこれは難しいという判断を下しました。そしてアメリカに帰ろうという時に、たまたまパソナからアメリカに帰るのを延ばして、こちらの仕事を手伝ってくれないかと言われまして、それが日本のパソナで働くきっかけだったんですよね。
白石:それからなし崩し的に、半分流れで就職してしまいました。だから、最初は時給でした。笑。

丹下:営業で入社されたんですか?

白石:そうですね。で、私も本格的な営業の体験というのがアメリカを除くと、そのアメリカに残してきた先輩とやった車の用品の販売が初めてだったんです。その営業は会社のパンフレットも無く、A4のコピーしたチラシと現物だけで営業していたので、信用が全くない状態でしたから、その後パソナに入って、要は信用がある営業をしてこんな楽な営業はないと思いましたね。一番最悪の状態からスタートしたので、業界で言うと中古車業界とか個人事業主みたいな所を回っていて、もっともきつい営業やってからだったので、トップセールスで、数字も良かったです。簡単には辞めさせてもらえなかったですね。そのままズルズル28歳くらいまで在籍し、社内ベンチャーで起業というのがこれまでのバックグランドです。元々、会社を起す気ではいましたから。

丹下:そもそも起業というのはいつくらいから目指していたんですか?

白石:子供の頃からです。家も自営でしたから、あんまりサラリーマンという気持ちはなかったですね。
企業も生命体~環境に順応しない者は滅びる~

丹下:最後のゴール、つまり会社としての夢みたいなものはどう設定していますか?

白石:事業というのはゴールがないと思っています。次世代に継承していく、常に今よりもよくしていく、あるいは範囲を広げていくということをひたすらやっていくわけです。逆に言うと、そうしていないと会社って途中で潰れますよ。何かゴールしたと思った瞬間に会社というのは終りを迎えると。何かの目標に向かっていくというより、一生完成しない建築物を作っているようなものですよ。色々なところで言っているのですが、ダーウィンの進化論で必ず環境の変化に対応できない種は滅びていくわけですよね。これは自然の法則です。会社も同じですよ。動物も人間も会社も生命体ですから、何年に一回のインターネット革命ですとか、流通革命ですとか対応できなかった会社というのは滅びていくわけです。そういった環境変化はこれからも起きるわけですから、ベネフィット・ワンとして大きなビジョンを持ちながら、常に変化していく環境に合わせて企業体も変化させていくというのが生存方法というか、やらなくてはならないことだと思っています。
丹下:こういうことは社長さん自らが考えるのでしょうか?あるいは会社のDNAとして社員さんが変化に対応することが生き残る手段だと意識しているのでしょうか?

白石:過去に危機感を持っていたのは私だけですよ。それがなかなか下に伝わっていかない。

白石:どこかで、下に権限譲渡をしていかなければと思っています。今当社は契約社員を含めると850人で、来年には1000人になります。1人の人間の意識でコントロールするのはもう限界です。現在20名いる責任者に危機感やモノの考え方を落としていっていますが、私と同じくらい危機感を持っているのは2,3人です。それが5人、10人となっていけば、組織化ができます。会社の規模に合わせてマネジメントができる人間が揃わないと。私なんかもこの一年間、危機感をさらに持っていますけど、会社が大きくなって業績も良くなれば下の人間というのは危機感を持ちにくくなりますからね。現場見ると危機感薄れてきているなと思いますよね。

丹下:啓蒙活動なんかもやっているんですか?

白石:頻繁に行っています。所属とは関係なく、20代の人間集めて擬似的な経営会議を開いたりね。色々なコミュニケーションのチャネルを使いながら、経営とはとか考え方・理念、そういうものを落とすようにします。

丹下:当面の目標としては、流通革命を起こすために、現状に対する危機感を植え付けるということでしょうか?


白石:そうですね。ウチは数値管理に関してはできていると思うんです。上場して何年も経ちますし。でも数字だけ管理しているとやっぱりその弊害って出てくるんですよね。どういうことかというと、数値がいい会社というのは妬まれます。
そんなつもりがなくても、なんだあの会社、若いやつを部長にさせたりして。そうすると、若いくせに生意気だと必ずなります。本人にその気がなくても、日本っていう国は必ず言われますよ。基本的に資本主義ではなく社会主義ですから。そういったときにベネフィット・ワンの社員としてはどういった対応をしなければならないかといったことも話します。「若いくせに生意気だとか妬みだとかは絶対あるから、そうならないように細心の注意を払えよ」とはよく言います。数字だけ上げようとすると自社の利益だけを考えがちじゃないですか。
白石:相手のことを思いやりながら数字を上げていくのが一番じゃないですか。でも、若い社員というのは利益に走りがちです。そうすると、どこかで恨まれます。小さな会社さんでしたら、当社と取り引きなかったら潰れるとかありえますからね。そうなると「ベネフィット憎し」になりますから。これもダーウィンの進化論になってしまいますけど、役に立たないものは淘汰されますからね。社員に必ず言うのは、「大義名分とか自分たちの存在意義をきちんと見ておけよ」ということです。キレイ事じゃなくてね、大義名分等がないと世の中で存在を許されないんだよと。だから、利益を還元しないと自然界から淘汰されます。共存共栄みたいな。ですから、私は会社を存続させることは大変難しいことだと思っています。1つの形態が続くというのはこれだけ変化の激しい時代で大変なことだと思いますよ。

丹下:そういう意識がトップの方から下まで根付いているという感じなんですね?

白石: 100点中根付き度は40点くらいじゃないですか。これだけ人数が多いと末端までというのはなかなか難しいです。
丹下:個人としての夢という観点ではどうでしょうか?

白石:正直私はそんなに大きな夢があるわけじゃなくて、日々会社のビジョンを達成していく過程、達成感を共有化したり可視化して、皆と共に過ごすのが一番ですね。今が一番ですね。明日とかではなくて、あまり先のことは考えないですね。

丹下:会社を成長させていく過程の中に夢があると。

白石:そうですね。楽しみたいですね。後悔だけはしたくないですからね。「あの時こうすればよかった」とだけは思いたくないですから、その場その場で自分にとって最適な選択をしていきたいですね。難しいですけど、少なくとも最適な選択をしようと努力はしています。

丹下:わかりました。本日はありがとうございました。

白石:こちらこそ、ありがとうございました。




  以前働いていた企業で、ベネフィット・ワンのサービスを利用していました。これほどまでに急成長した会社の真髄は何なのか。福利厚生のアウトソーシングだと私も思っていましたが、サービスの流通を創造するというビジョンをお聞きして、なるほどと思いました。ユーザー課金型は、かなり難しいと思いますが、情報の公正性を考えるとそれが一番ユーザーにメリットがあると。ビジョンと実務が連動した会社こそ、業界に革命を起こせると。まさにそれを目の当たりにした取材でした。