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株式会社ATRヤマト

戦時中は、零戦に代表されるように飛行機大国だった日本
 「明日新潟にいくから朝一の新幹線予約しといて」私は、社員にそう言って、チケットを取らせた。翌日、新潟の青い空の下にいた。駅からタクシーで10分。古ぼけた車の修理工場の中に、真っ白な飛行機模型が見えてきた。修理工場の前で手を振っている、満面の笑顔で迎えてくれた旧友がいた。ATRヤマトの吉田社長である。ドリームマガジンの記念すべきスタート号の取材がはじまった。

 戦前は、日本も世界を代表するような飛行機メーカーがたくさんあった。しかし、敗戦後飛行機メーカーは解体され、民生用のメーカーとしては無くなってしまった。ただ、飛行機製造の技術はしっかりとしたものがあり、三菱重工、川崎重工、石川島播磨重工、日本飛行機、新明和工業と、世界中から機体の一部の製造を依頼されている。でも完成機として個人で飛行機メーカーを立ち上げた例は無く、吉田社長はこれを実現しようと言う。これほどまでにエキサイティングな大志を抱いた社長に会いに行った。
 

2004年にアメリカの航空法に衝撃が走った!

丹下:航空機メーカーを作ろうとされているみたいですが、本当ですか?

吉田:はい。弊社は航空機メーカーを目指しています。航空機といっても皆さんが想像するようなジャンボジェットとは違い、LSAというカテゴリーです。

丹下:LSAとはなんですか。

吉田:アメリカで2004年に航空法の改正がありました。その航空法の改正によって生まれたのがLSA(Light sports aircrafts)というカテゴリーです。

丹下:なるほど。それはどのようなものですか?

吉田:簡単に言いますと、今まで普通自動車しかなかったカテゴリーに軽自動車というカテゴリーを新設しました、というものです。飛行機の市場というのはピラミッド構造になっていまして、1番上がジャンボジェットに代表される大型旅客機です。これが値段で言うと150億円近くします。

丹下:ものすごく高いですね。

吉田:そうですよ。そして、次にビジネスジェットがきます。いわゆるセレブの方々が自家用に買っているのもこのカテゴリーが多いですね。HONDAジェットがこのカテゴリーに入ります。値段はだいたい5億円くらいです。それから聞いたことがあるかもしれませんが、セスナ機があります。

★ Dreamerのプロフィール
出身地 奈良県
生年月日 1969年1月9日
学歴 大阪芸術大学デザイン学科インダストリアルデザインコース卒
略歴  フィリップスコーポレートデザイン東京にて6年間、PHILIPSブランドAV機器・無線機器の工業デザインを担当。
 その後、フィリップスの極東本部の香港移転を機に、クリナップ株式会社に転職、キッチン、バス、洗面台などの企画・開発・デザインを担当。
マサチューセッツ工科大メディアラボ研究所と共同研究で渡米中にアメリカ連邦航空法の大改正を知り、飛行機開発への挑戦を決意。
趣味 飛行場めぐり、デパートめぐり
その他 大学時代より自主的に航空機の研究を継続、ウルトラライトプレーン(小型機)の操縦が出来る!

☆ 会社概要
企業理念 知恵と勇気と行動で常に新たな挑戦を続け、新しい時代のより良いモノ造り産業の構築を目指す。
社名 株式会社ATRヤマト
代表者 吉田宗玄
設立 2007年9月20日 (空の日)
住所 〒959-0215 新潟県燕市吉田下中野1594-3
TEL 0256-47-7755
FAX 03-5497-4330
URL http://www.rak2.jp/hp/user/atryamato/
丹下:聞いたことあります。有名ですよね。

吉田:そうですね。これが2000万円~5000万円くらいまであります。

丹下:一般の方に手が届きそうな価格になってきましたね。それでも高いですが。

吉田:そうですね。そして、このセスナより安い飛行機のカテゴリーができたんですよ。

丹下:それがLSAというわけですね。


レクサスを買う値段で飛行機が買える

丹下:ちなみにお値段はいくらくらいなんですか?

吉田:だいたい1000万円前後ですね。

丹下:思ったより安い。もうレクサス買うのと変わりませんね。

丹下:でも飛行機って、維持費とか免許取得とかにお金が掛かりそうですね。

吉田:そこが今回の法改正で規制緩和になった大きなポイントなんです。アメリカでもセスナ機の免許を取得しようと思ったら約80万円位掛かります。でもLSAなら40万円で取得できます。普通自動車と変わりません。更に、飛行機の世界も車検があるのですが、講習を受ければ、自分で整備して自分で車検できます。つまり、自己責任のもと飛行機を飛ばす事が出来るんですね。

丹下:ところで、アメリカではLSAの市場はどれくらいあるんですか。

吉田:アメリカはものすごく国土が広いじゃないですか。全米に飛行場は3万か所もあります。ちなみに日本は150か所です。日本の200倍ですね。

吉田:だから、アメリカでは小型飛行機が、すでに32万機登録されており、セスナのライセンスを持っている人で120万人以上いると言われています。

丹下:へー、やっぱりアメリカは違いますね。でも、セスナのように高い金額をだせない飛行機マニアもいるんですよね。

吉田:おっしゃる通りです。今までセスナを買えなかった飛行機マニアに手の届く飛行機としてLSAが登場したということです。それがユーザーに受けて、LSAのライセンス保有者は毎年2万人の割合で増えています。

丹下:すごい数ですね。LSAの普及のスピードもかなりのものですね。


Productデザイナーから飛行機デザイナーへ

丹下:でも、なぜ飛行機を創ろうと思われたんですか?

吉田:学生時代にオートバイに乗って風を切りながら走る楽しさに魅了され、それから空を飛ぶことに興味を持ち始めました。自分で運転して空が飛べたら、どんなに気持ちが良いんだろうって。それから飛行機に興味を持ち始めました。

丹下:なるほど、いわゆる飛行機マニアですね。でも、仕事自体は飛行機とは関係ない世界で経歴を積まれていたんですね。

吉田:はい。もともとは大阪芸術大学を卒業して、外資系家電メーカーでプロダクトデザイナーをやっていました。飛行機は、外形形状が飛行性能を決める部分も多く、デザイナーが関われるものじゃないと勝手に思い込んでたんですね。それが、好きが高じて、飛行機に乗ったり、飛行機を組み立てたりしていると、段々とそんなに難しくないんじゃないか。と思うようになったんです。


日本で作るとコスト1/3になる

丹下: なるほど、でも今までの家電やキッチン、浴室等のプロダクトデザインと飛行機がなぜ結びつくんですか?

吉田:外資系の家電メーカーや、日系のキッチンメーカーでプロダクトデザインをやりながら、製造は新潟県の燕三条というものづくりで有名な地域で、委託して製造していました。その時、ある部品を、時代の流れで安価に中国で作れないかと思い、中国と燕三条で合見積を取った事があったんです。

丹下:時代の流れですからね。それで中国に発注されたんですか?

吉田:いいえ、中国で試作したものは、1つ200円くらいで出来たのですが、燕三条は少し造りを工夫して60円位で出来たんです。1/3の価格です。しかも品質が良かった。

丹下:へー、凄いですね。それがものづくりの知恵なんですね。

吉田:その時思ったのは、この技術を埋もれさせてはいけないなと。ちなみに、ここ燕三条ってご存知でした?

丹下:はい。あの洋食器で有名ですね。

吉田:そうです。最盛期では洋食器で世界の4割、国内では9割の生産高を誇っています。ほかにはアップルのipodの鏡面加工部品の製造も燕三条で行われました。

丹下:それだけ技術が集結した地域なんですね。

吉田:そうなんです。私はこの燕三条を世界の小型航空機の供給拠点にしていこうと考えています。そして、うちの飛行機がひとつの産業になれば地域の人たちもその生産に携わっていただき、共に潤うことができると思っています。

丹下:素晴らしいですね。これぞ、社会貢献ですね。

吉田:ありがとうございます

丹下:でも吉田さんが得意なのは、構造設計の部分で、強度が十分で、いかに生産性の高いものづくりの仕方を設計するのかが強みなんですよね。飛行機はやっぱり空力特性が重要なので、その部分の設計はどうするんですか?

吉田:そこは、元富士重工や川崎重工、新明和で空力設計をされていたOBである、外部の協力エンジニア数名に担当してもらいます。飛行機とは言っても小さな所帯ですから、色々な方々の力を借りながら進めていく予定です。




リッター15Kmの低燃費飛行機

丹下:エンジンはどうするんですか?

吉田:静岡にあるHKSというメーカーのエンジンを採用しようと思っています。排気量にして700ccほどの小さなエンジンですが、レジャー航空機用に作られており既に1500台は売れています。純国産を狙ったというよりも、他にもう1つ海外のエンジンがあったのですが、性能面を含めて国産にしました。結果として日本製になったということです。

丹下:実際はどんな速度で飛べるんですか?

吉田:巡航速度で時速160Kmくらいですね。乾燥重量も250Kgくらいと結構軽いですね。あと、実は燃費も良いんです。リッター15Kmくらいですので、自動車のヴィッツとかと一緒です。燃料タンクも30Lくらいですので、東京→大阪間くらいは飛べます。

丹下:なるほど。設計のプロ、ものづくりのプロ、スペックの良い部品メーカーと良き協力者がいて、素晴らしいですね。資金面は如何ですか?

吉田:もともと小型飛行機のため、開発費自体、何億もするものじゃありません。数千万円もあれば開発できるものです。新潟県より一部援助して頂いたり、自分達で設計の請負や部品の製造もして稼いでいます。


「日本に航空文化を根付かせる。」

丹下:最後に、今後の計画を教えて下さい。

吉田:飛行機は3年計画を考えています。この半年で、空力設計までできモックアップを作る事が出来ました。そしてこの1年は、飛行機の構造として、生産性やコストを意識した設計をしようと思っています。2年目は、1/3のラジコン飛行機を作って無人飛行試験をしようと思っています。3年目は1/1の試作機を作って検証します。

丹下:なるほど。とにかくやるしかないですね。

吉田:はい。私自身モノづくりをずっとやってきていますので、せっかく日本が培ってきたものづくりの技術というものを、失いたくないという気持ちがあります。失うということは我々が今後も仕事をする場がどんどんなくなっていくということですから、弊社がLSAを作ることによって活性化していくことができればいいなと考えています。

丹下:日本の産業を新たに作り出すわけですからね。非常に大きな価値がありますよね。

吉田:ありがとうございます。最終的には日本の航空文化とモノ造り文化というものの裾野を広げていきたいと考えています。

丹下:航空文化というもの自体、日本にはないかもしれませんね。(笑)

吉田:本当に悲しいことです。日本人が飛行機になじみがないのは、国土が狭いからという理由があげられますが、実はそうではないのです。

丹下:といいますと?

吉田:法律が全然整備されていないんです。日本の航空法というのは、昭和27年に発効されたものがほとんどそのまま残っている状態です。修正されている部分は旅客機などの部分が中心です。小型機の分野というのはほとんど法整備がされていない状況です。

丹下:なるほど。

吉田:例えば、日本国内にレジャー用の飛行機は約1800機ありますがそれに対してイギリスでは約4倍の数があります。しかしながらイギリス人口は日本に比べ約半分、国土も日本の本州と同じ程度です。だから国土の広さが、飛行機の普及を阻害しているわけではないという事が判ります。

丹下:日本の航空法を変えるにはどうしたらいいのでしょうか?

吉田:私の思惑ではアメリカで日本人が生産するLSAが普及するにつれて、日本国内で「なぜ日本で生産した飛行機がアメリカで飛ばせるのに、日本では飛ばせないんだ」という議論が活発化していくと考えています。そうすることによって、世論を動かし、国を動かしたいですね。

丹下:世論を動かし、国を動かす。本当に大きな夢ですね。今の日本で吉田さんのベンチャースピリットを持ったサムライのような方が少なくなってきている気がします。今回の取り組みで日本を活性化することができると良いですね。本日は大変興味深いお話をありがとうございました。

吉田:こちらこそありがとうございました。



 私はシフトをたった1人で起業し、ビジネスモデルもなにもなく、1年間は死に物狂いで仕事した。そんな私の支えになったのが、最初の仕事をくれたもの好きな社長だった。その人がいなければ今のシフトは無いし、今の自分も無い。今の時代、個人で飛行機メーカーを創ろうなんて、馬鹿げている。しかも航空機産業のほとんど無い日本で。もの好きだと言われるかも知れない。単なる趣味だとも。そんな起業家を応援すること自体、ナンセンスだと私も言われるかも知れない。大の大人が夢を見ている、ただ、純粋な目をして。無我夢中でひとつの事に人生を掛けている。そんな人がいても良いんじゃない。私は、その少年のような夢人のサポーターでありたい。ただ、それだけだ。